事前収録映像と歌を組み合わせ、しっかり配信向けに作ったオペラ~ボストン・カメラータ『ダイドーとイニーアス』(配信)

 ボストン・カメラータの配信で『ダイドーとイニーアス』を見た。ネイハム・テイトが台本を書いたパーセルの短いオペラで、アンヌ・アゼマ演出のものである。配信のため新しく作られたプロダクションだ。お話はお馴染みの『アエネーイス』のカルタゴの下りである。カルタゴ女王ダイドー(Tahanee Aluwihare、ちょっと名前の発音がわからなかった)が魔術師たちの策略によりイニーアス(ルーク・スコット)と引き離され、命を絶つまでを描いた短い作品だ。

bostoncamerata.org

 かなり配信に特化した演出で、事前に収録した映像やらイメージ映像などと、演奏や歌唱の映像を組み合わせたものだ。歌唱は基本的にかなりシンプルなスタジオと思われる場所で行われ、衣装も現代風である。事前に収録したと思われる映像がなかなか面白く、イニーアスはおそらくボストン近郊ではないかと思われる紅葉がきれいな場所でマスクをして犬を連れて歩いているのが初登場で、ダイドーとのカルタゴ生活ですっかり落ち着いているのが家庭的な雰囲気で示されている(犬も可愛い)。一方、魔術師達の隠れ家は雪の中の落書きだらけの地下道みたいなところに設定されており、魔術師(ジョーダン・ウェザーストン・ピッツ)はアングラでパンクな活動家のリーダーみたいな感じである。たまにもうちょっと音の撮り方に注意してほしいと思うところもあったが(おそらくマイクの位置のせいと思われるのだが、音量が一定していない箇所が少しあった)、音楽も良かったし、配信のオペラとしてはかなり良くできていると思った。