妖精や恋人たちのパートはとても良い~モンペリエ国立歌劇場『夏の夜の夢』(配信)

 モンペリエ国立歌劇場、ベンジャミン・ブリテンの『夏の夜の夢』を配信で見た。テッド・ハフマン演出で、2019年5月10日に上演されたものの記録映像である。

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 全体的に非常にシンプルな美術で、平たい床がついた箱みたいなセットがあり、背景は上から降りてくる雲や月くらい、大きめの道具といえば脚立くらいである。ただしパック(Nicholas Bruder)は宙づりで飛んで入ってくるので、ここはけっこう凝っている。人間たちは1950年代末から1960年代初頭くらい(初演の時期)と思われる衣装を着ており、女性陣はわりと華やかだが、男性陣は軍隊にでも入るのかというような決まり切った格好だ。一方、妖精たちはみんな中性的な白いスーツにツルっとした黒いカツラをかぶっており、ヒゲをはやしていてかなり男男しいパック以外はややジェンダーが曖昧な感じに作ってある。中性的なカウンターテナーのオーベロン(ジェイムズ・ホール)と男っぽいパックというのはなかなか意外性のある組み合わせだ。タイタニア(フロリー・ヴァリケット)はスーツの時は中性的なのだが、変身したボトム(ドミニク・バルベリ、ちょっとロバ耳帽子をかぶっただけであまり他の妖精と変わらない、人間に近い雰囲気)と一緒の時はセクシーな下着姿になっており、ギャップで面白さを醸し出す演出になっている。

 ただ、こういう妖精や恋人たちのパートはとても良いのだが、職人たちのお芝居の場面でデカい操り人形が出てたり、塀やライオンがけっこう大がかりだったりするのは素人芝居のテキトーさを考えるとちょっとやりすぎな気がした、作り込みすぎていて、ここまでの芝居の雰囲気とあんまりあわないように見える。職人たちのお芝居はもっとシンプルな演出のほうが良かったのではないかと思う。