そのオナラは泣くとこでは~『シュガー・ラッシュ:オンライン』(ネタバレあり)

 『シュガー・ラッシュ:オンライン』を見てきた。

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 前作『シュガー・ラッシュ』で親友になったラルフとヴァネロペは楽しく過ごしていたが、ラルフがヴァネロペのゲームであるシュガー・ラッシュに新しいコースを作ったことからゲームが壊れてしまう。修理には新しいハンドルが必要だということで、ラルフとヴァネロペはインターネットの世界にハンドルを探しに行くが、そこでヴァネロペは新しい世界を知って…

 

 かわいい見た目にもかかわらず、なんだかとんでもないオトナな話である。前作から6年たっているという設定で、さらに作中でラルフとヴァネロペがどちらもものすごく成長するので、前作では少年少女(ラルフは一応大人だが、精神年齢はヴァネロペとそう変わらないだろう)のバディ映画だったのが、今作ではなんかもう大人のロマンスみたいになってしまっている。そして大人ででっかいラルフと見た目が少女のヴァネロペでロマンスだとちょっと見映え上まずいのではないか…と思ったところで、最後になんとヴァネロペがシュガー・ラッシュを出て、自分により似合うゲームであるスローターレースの世界に住むことを決断するというオチになる。

 

 たぶん、このヴァネロペとラルフの別れが象徴するのは、一義的には少年少女が子供時代を卒業することなんじゃないかと思う。前作の『シュガー・ラッシュ』を小学生くらいで見た子供たちは、もうそろそろ大学に進学したり、仕事についたりする年頃だ。親友や恋人と離れて暮らすことを決断する子供たちもいるだろうが、目指す道が違っても親友でなくなるわけではない。スローターレースのロードクイーンであるシャンクがヴァネロペに教えるように(この2人の会話でベクデル・テストはパスするのだが、このシャンクはすごくちゃんとした女性キャラである)、どんなに仲が良くても同じ方向だけ見て生きていけるわけではない。

 一方、大人が見るとたぶん、これは愛する人が行う人生の選択をどう受け入れるかという話になる。この視点で見ると、この『シュガー・ラッシュ:オンライン』はものすごくほろ苦い大人のロマンス映画である(『クィア・アズ・フォーク』の最終話を思い出した)。最後、スローターレースに引っ越したヴァネロペがホログラムでラルフと会話して別れを告げる時、"Farting is such sweet sorrow"と言うのだが、実はこれは『ロミオとジュリエット』でジュリエットがロミオとの別れを惜しむ台詞"Parting is such sweet sorrow"「お別れはなんて甘い悲しみ」のもじりだ。この『ロミオとジュリエット』の台詞自体は前作でもちょっと出てきていたのだが、ヴァネロペは"Parting"「お別れ」を"Farting"「オナラ」に変えて冗談にしている。もともとは『ロミオとジュリエット』に出てくる真剣な愛の台詞を下ネタで暗くならないようにしてさよならするのは明るい性格のヴァネロペらしいが、その下に隠されている感情を考えるとちょっと切ないものがあるし、その後のラルフの表情もすごくビターな感じだ。このオナラは実は泣くところなんじゃないだろうか(しかし、去年はフルーツとセックスする映画にうっとりし、今年はオナラで泣けてくるとは、私は大丈夫なのだろうか)。

 

 こういうわけで人の成長とか別れをかなりちゃんと描いた作品なのだが、一方で子供向けのディズニー映画としてはかなり攻めてるなと思うような描写もたくさんある。ラルフの脆弱性がウイルスに狙われ、肥大化したエゴの集合体みたいになって『キングコング』ばりに暴れる場面はけっこうグロくて怖い。最後にラルフとヴァネロペがパンケーキのミニゲームに出て、ふとしたことから大惨事に…というシークエンスはエルサゲートのもじりだと思うので、ディズニーとしてはかなりギリギリのギャグだと思う。エンドロールに出てくるアイコンになぜか「シャーロックのファンフィクション」というのがあったのはスタッフの趣味なのか何なのか、これもちょっとギリギリだ。さらに、エンドロールにジョン・C・ライリーがリック・アストリーの「例の歌」こと「ギヴ・ユー・アップ」を歌ったクレジットがあって、そんなんあったかぁ?と思ったら、一番最後にラルフが所謂リックロールのパロディをするおまけがついていて、爆笑した。