よくできた話だが、個人的にはあまり…『落下の解剖学』(試写、ネタバレあり)

ジュスティーヌ・トリエ監督『落下の解剖学』を死者で見た。 www.youtube.com 雪深い山奥の山荘でサミュエル(サミュエル・タイス)が転落して死亡しているのが見つかる。死体に最初に気付いたのは視覚障害のある息子ダニエル(ミロ・マシャド・グラネール)…

いい芝居だが、キャスティングをもうちょっと…『やさしい猫』

劇団民藝『やさしい猫』を招待で見てきた。中島京子による小説が原作で、これはテレビドラマ化もされている。小池倫代台本、丹野郁弓演出による舞台化である。 スリランカから日本に引っ越してきた移民のクマラ(橋本潤)は、東日本大震災のボランティア活動…

芝居の出来とは別に、個人的にあまり…『テラヤマキャバレー』

日生劇場で『テラヤマキャバレー』を見てきた。池田亮台本、デイヴィッド・ルヴォー演出で、死の直前の寺山修司の意識をめぐるお話である。 寺山修司(香取慎吾)が死亡する直前の意識の中で、いろいろな役者たちが登場して寺山に名前をつけてもらうところか…

ある種のハグスプロイテーション映画~『ボーはおそれている』(試写)

アリ・アスター監督の新作『ボーはおそれている』を試写で見た。 www.youtube.com ボー(ホアキン・フェニックス)は母モナ(パティ・ルポーン)のところに帰省するつもりだったが、寝坊した上に自宅の鍵を盗まれて飛行機に乗れなくなる。その後受け取った母…

非常に苦手~『ヴェルクマイスター・ハーモニー』4Kレストア版(試写)

『ヴェルクマイスター・ハーモニー』4Kレストア版を試写で見た。長回しの多い映画で、個人的にはメチャクチャ苦手なテンポだった。タル・ベーラの映画を初めて見たのだが、起きているだけで精一杯という感じだった…ちょっとタルコフスキーに似てると思う(タ…

予告とは全然違う正攻法の歴史もの医療スリラー~『梟 フクロウ』(試写、ネタバレあり)

アン・テジン監督『梟 フクロウ』を試写で見た。 www.youtube.com 李氏朝鮮の史書に出てくる謎の不審死を元ネタとする、歴史ものの医療スリラーである。鍼の名人であるギョンス(リュ・ジンヨル)は腕を認められて宮廷で働くことになるが、そこでよくしてく…

『ジェンダー事典』に寄稿しています

丸善から出た『ジェンダー事典』の「ソーシャルメディア」の項目に寄稿しております。なぜかウィキペディアのこともここに入っております。 ジェンダー事典 作者:松本 悠子,伊藤 公雄,小玉 亮子,三成 美保 丸善出版 Amazon

けっこうな野心作~こまばアゴラ劇場『オセロー』

こまばアゴラ劇場で滋企画『オセロー』を見てきた。ニシサトシ演出による作品である。 パイプ椅子くらいしかない舞台で、登場人物は赤ジャージなど現代の衣装を着ている。小道具もハンカチ程度である。5人だけのとても小規模な舞台で、1人で複数の役を演じた…

All That Burlesque vol.11

All That Burlesque vol.11を見てきた。naspy、Ruby Rubbit、FURI RIOT、八丸、Yuli the Star★、裸のマハが出演した。前半は黒い衣装で蜘蛛女に扮した(スパイダーマンの曲も使っている)FURI RIOTがなかなか工夫があったと思う。後半はミュージカル『ムーラ…

宇宙船はやめたほうが…METライブビューイング『マルコムX』

METライブビューイング『マルコムX』を見てきた。アンソニー・デイヴィス作曲で1986年に初演された作品の再演である(ワークショップ公演みたいなのはその前にあったようだが)。カジム・アブドラ指揮、ロバート・オハラ演出によるものである。いわずとしれ…

ライブは大変良いのだが、時代も感じる~『ボブ・マーリー ラスト・ライブ・イン・ジャマイカ レゲエ・サンスプラッシュ』デジタルリマスター版(試写)

『ボブ・マーリー ラスト・ライブ・イン・ジャマイカ レゲエ・サンスプラッシュ』デジタルリマスター版を試写で見た。1979年7月にジャマイカで開催された第2回レゲエ・サンスプラッシュの様子を撮ったコンサート映画である。ライブ映像のみならず、街の様子…

いろいろ詰め込みすぎでは…『celos~緑色の目の怪物』

新宿スターフィールドでDialogue!×SHAKESPEAREの『celos~緑色の目の怪物』を見てきた。シェイクスピアのいろいろな作品をつないで作るシリーズの3作目である。 基本的には『オセロー』と『冬物語』で、それに『ハムレット』『マクベス』『夏の夜の夢』など…

すごくよくできた映画だが、2箇所だけ疑問が…『カラーパープル』(試写)

『カラーパープル』を試写で見た。アリス・ウォーカー(最近、ヤバい陰謀論とかにハマってしまって個人的には非常に悲しいのだが…)の小説のミュージカル版の映画化である。既に1985年にスピルバーグが一度映画化している(この旧作はミュージカルではない)…

物足りないところはあるがちゃんとした歴史もの映画~『ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人』(試写)

『ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人』を見た。主演のジャンヌ・デュ・バリー役のマイウェンが監督もつとめている歴史ものである。 www.youtube.com ヒロインのジャンヌ(マイウェン)は非嫡出子として生まれたが、母親の雇い主のおかげで教育を受ける…

台本がいつできあがったのか心配になるくらいの新しさ~『岸辺のベストアルバム!!』

下北沢の小劇場B1でコンプソンズ『岸辺のベストアルバム!!』をご招待で見てきた。一応、「春雨」(波多野玲奈)なる若い女性の書いたお話だという枠に入っている…という触れ込みで始まるのだが、コンプソンズのお芝居なのでだんだんこの枠についてもわけがわ…

ドラァグショーに取り組む青年とおばあちゃんの交流を描いたカナダ映画~『ジャンプ、ダーリン』

『ジャンプ、ダーリン』を見てきた。 www.youtube.com ドラァグクイーンとしての大事な舞台を控えたラッセル(トーマス・デュプレシ)は、ドラァグショーをよく思っていないボーイフレンドと仲違いしてしまい、ステージを放り出してしまう。家を出たラッセル…

今月の『芸術新潮』は『コット、はじまりの夏』のレビューです

今月の『芸術新潮』では『コット、はじまりの夏』のレビューを書いています。全編アイルランド語の映画で、2022年のベスト10に選んだ映画です。 芸術新潮 2024年2月号 作者:芸術新潮編集部 新潮社 Amazon

『POPEYE』特別号に以前作った記事が再録されました

2022年の『POPEYE』8月号に、古典ベースのティーン映画に関する私のコメントが収録されているのですが、そちらが『POPEYE特別編集 若いうちにいい映画をたくさん観よう』に再録されました。p. 26です。 POPEYE特別編集 若いうちにいい映画をたくさん観よう。…

そういう時は腹巻でしょ…『宝くじの不時着 1等当選くじが飛んでいきました』(ネタバレあり)

『宝くじの不時着 1等当選くじが飛んでいきました』を見た。 www.youtube.com 舞台は38度線の監視所である。たまたま宝くじを拾ったパク・チョヌ(コ・ギョンピョ)は、これが大当たりだったことにビックリする。ところがひょんなことから宝くじが北側に風で…

アルクのウィキペディア連載を引き継ぎました

アルクでやっていたウィキペディアのミニ連載をユージン・オーマンディさんに引き継ぎました。初回はウィキメディア界で話題のマレーシアについてです。 ej.alc.co.jp

あまりこういうのは…『熱のあとに』(試写)

『熱のあとに』を試写で見た。新宿ホスト殺人未遂事件をヒントにしたものだそうなのだが、正直なところ、私は(最近だと『月』とかもそうだったのだが)直近のショッキングな事件を題材に作家が描きたいことを描く…みたいなお話には若干抵抗感があり、とくに…

ゲームストップ株騒動を描いた抱腹絶倒のコメディ~『ダム・マネー ウォール街を狙え!』(試写)

クレイグ・ギレスピー監督『ダム・マネー ウォール街を狙え!』を試写で見た。実際の事件である2021年のゲームストップ株騒動を描いたものである。 www.youtube.com 「ローリング・キティ」というハンドルで株の配信チャンネルをやっているキース(ポール・…

ちょっと詰め込みすぎでは…下北沢小劇場B1『しろばら』

下北沢小劇場B1で『しろばら』を見た。『夏の夜の夢』の翻案である。 タイトルが暗示しているように白バラ抵抗運動のショル兄妹がモチーフで、全体がハーミア(ゾフィ・ショルにあたると思われる人物)の夢という枠に入っている。このため『夏の夜の夢』の登…

コックと泥棒、愛人と…『サンクスギビング』(ネタバレあり)

『サンクスギビング』を見てきた。イーライ・ロスが監督で、『グラインドハウス』(2007)に入っていたなんちゃって予告編をもとにした作品である。ただ、『グラインドハウス』の予告編で予告されていた映画そのものではなく、そのリブート(もとの映画はフィ…

童心の力~ミュージカル『テニスの王子様』4thシーズン 青学vs立海

観劇会で立川ステージガーデンにてミュージカル『テニスの王子様』4thシーズン 青学vs立海を見てきた。関東の決勝戦で、青学と超強豪である立海が戦い、青学が勝利するまでを描いている。最後にテニミュを見たのは新型コロナ前なので、だいぶ様変わりしてい…

音と照明がちょっと…少年社中『テンペスト』

少年社中『テンペスト』を池袋サンシャイン劇場で見てきた。25周年を目前に演出家が亡くなってしまった劇団が『テンペスト』を上演するという内容だ。けっこういじってある翻案で、基本的にバックステージものである。 いろいろ笑えるところや面白いところは…

『正義はどこへ行くのか』刊行記念イベントが無事終了しました

河野真太郎さんの新刊『正義はどこへ行くのか』刊行記念イベントが無事終了しました。お聞き下さった方々、どうもありがとうございます。私はいろいろ妙なことばかり言っておりましたが、途中でタイトルが出てこなかった本は『リバタリアンが社会実験してみ…

香港の移民コミュニティを描いた作品~『白日青春-生きてこそ-』

『白日青春-生きてこそ-』を試写で見た。 www.youtube.com 陳白日(アンソニー・ウォン)は中国本土からやって来て香港でタクシー運転手をしているが、警官になった息子とは不仲で、ぱっとしない暮らしをしている。一方、パキスタンから移民してきて両親が…

付喪神…?『サウンド・オブ・サイレンス』(試写)

『サウンド・オブ・サイレンス』を試写で見た。 www.youtube.com 古いラジオに何か悪い霊的なものが取り憑いていて…という付喪神みたいな話で、音を使ったホラーである。『死霊のはらわた ライジング』もちょっと古い機械で音を再生するのがネタのホラーだっ…

とても面白いが、原作とは別物のスチームパンクコメディ~『哀れなるものたち』(試写)

ヨルゴス・ランティモス監督『哀れなるものたち』を見てきた。アラスター・グレイの同名小説の映画化である。 www.youtube.com ロンドンに住む医者のゴッドウィン(ウィレム・デフォー)は自殺した若い妊婦の身体に胎児の脳を移植し、ベラ(エマ・ストーン)…